弁護士服部浩司(ユニヴィス法律事務所)

TOP 基礎知識 夫婦財産契約とは?結ぶメ...

基礎知識

夫婦財産契約とは?結ぶメリット・注意点と登記・費用を弁護士が解説

監修:弁護士 服部浩司

夫婦財産契約とは、民法に定められた制度で、結婚する二人が婚姻届を出す前に、結婚後の財産の扱いをあらかじめ取り決めておく契約です。
「婚前契約」「プレナップ(Prenuptial Agreement)」という言葉と混同されがちですが、この二つはイコールではありません(後述)。
夫婦財産契約は、財産の区分や事業資産の保全、離婚・相続時のトラブル予防に役立ちます。
一方で、「婚姻届の前に締結・登記する必要がある」「婚姻後は原則として内容を変更できない」といった独特のルールもあります。
この記事で要点を整理します。

夫婦財産契約とは(婚前契約・プレナップとの違い)

夫婦財産契約とは、民法755条以下に定められた、夫婦が婚姻の届出前に、婚姻後の財産関係についてあらかじめ取り決める契約です。
登記もでき、法律上の位置づけが明確な制度です。
一方、「婚前契約」「プレナップ」は、結婚前に二人で取り交わす約束ごと全般を指す、より広く緩やかな呼び名で、法律上の定義がある言葉ではありません。
財産のことだけでなく、生活のルールや家事の分担などを含むこともあります。両者の関係は次のとおりです。

  • 婚前契約の中には、夫婦財産契約にあたる内容を含むものと、含まないものがあります。
  • 財産に関する取り決めを、必ずしも婚前契約という形で行う必要はありません(夫婦財産契約として単独で結ぶこともできます)。

つまり、夫婦財産契約は「婚前契約」という広い枠に含まれうる一要素であり、両者は同じものではありません。

▼ 夫婦財産契約と「婚前契約・プレナップ」の違い

観点夫婦財産契約婚前契約・プレナップ
位置づけ民法上の制度(755条以下)法律上の定義はない、広い呼び名
主な内容婚姻後の財産関係の取り決め財産・生活・家事分担など幅広い約束事
登記できる(第三者対抗のため)夫婦財産契約に当たる部分のみ登記の対象
両者の関係婚前契約の一要素になりうる夫婦財産契約を含むものと含まないものがある

なお、夫婦財産契約をしなかった場合は、自動的に民法の定める法定夫婦財産制(民法760〜762条)が適用されます。
夫婦財産契約は、この法定のルールと異なる取り決めを、夫婦の合意で設計するためのものです。契約の効力は、婚姻の時から発生します。

▼ 法定夫婦財産制と夫婦財産契約の違い(イメージ)

項目法定夫婦財産制(契約しない場合)夫婦財産契約(結ぶ場合)
財産の帰属婚姻前の財産・自己名義で得た財産は特有財産。
帰属不明は共有と推定(民法762条)
財産ごとに特有/共有を自由に設計できる
生活費・債務婚姻費用を分担し、日常家事債務は連帯責任分担割合や債務の扱いを取り決め可能
変更婚姻後は原則変更不可(後述)

【実際のご相談から】
お二人とも婚姻前から相応の預貯金や投資資産をお持ちのご夫婦のケースです。
婚姻前からの財産は本来「特有財産」ですが、婚姻後にそれら資産を運用して得た利益や、共有財産と混ざり合ってしまったり、曖昧になってしまったりすることによって、離婚時の財産分与の対象になってしまうことがあります。
そこで夫婦財産契約で、婚姻前の財産だけでなく、その運用益の帰属まで具体的に定めておくことで、現時点でのお二人のお考えを契約書に反映させ、将来のトラブル予防を行いました。

夫婦財産契約を結ぶメリット

結婚後に取得する財産の帰属・管理方法を自由に決められる

結婚後に得た財産を誰のものとするか、どう管理するかを、夫婦の話し合いで明確に決められます。
たとえば「一方が事業で得た利益はその人の特有財産とする」といったルールを定められます。

財産ごとに特有財産・共有財産を区分できる(事業資産の保全)

すべてを一律に扱うのではなく、財産ごとに区分できます。
たとえば、自宅や共用の自動車は共有、個人の投資口座や相続予定の財産は特有財産、といった設計です。
とくに一方が会社経営・個人事業を行う場合、事業用財産と家庭用財産を分けておくことは、万一の経営悪化や離婚時に他方や家族の生活を守るうえで重要です。

離婚・相続時の紛争を予防できる

財産関係を事前に明確化することで、離婚時の財産分与や、一方が亡くなった際の相続人との争いを予防できます。
とくに収入・資産が大きい方同士の結婚、国際結婚、中高年の再婚(前婚の子がいるケース)で効果を発揮します。

夫婦財産契約の注意点・デメリット

契約は夫婦間では有効。ただし第三者に対抗するには「登記」が必要

夫婦財産契約は、登記をしなくても夫婦の間では有効です。
もっとも、その内容を第三者(たとえば夫婦の一方の債権者)や承継人(相続人など)に主張するには、夫婦財産契約の登記が必要です(民法756条)。
登記がないと、契約で一方の特有財産と定めていた財産でも、他方の債権者に差し押さえられるリスクが残ります。

登記は「婚姻の届出前」に行う

登記は、婚姻の届出前に行う必要があります(民法756条)。婚姻後に登記して第三者に対抗することはできません。
入籍日が決まっている場合は、そこから逆算してスケジュールを組む必要があります。

  • 管轄:どちらの氏を称するかによって届出先が変わります。夫の氏を称する夫婦は夫の住所地、妻の氏を称する夫婦は妻の住所地を管轄する法務局に申請します。
  • 登録免許税:1件につき18,000円(別途、専門家に依頼する場合は報酬)。

婚姻後は原則として内容を変更できない

夫婦財産契約は、婚姻の届出後は変更できないのが原則です(民法758条)。取引の安全のため内容を確定させる趣旨です。
したがって、結ぶ前の設計が非常に重要になります。

取り決めのない財産は法定のルールが適用される

契約で具体的に定めなかった財産には、法定夫婦財産制が適用されます(帰属不明なら共有推定など)。
現在の財産だけでなく、将来取得しうる財産についても、できる限り具体的に取り決めておくことが大切です。

こんな方に向いています

経営者・資産家、再婚・子連れ再婚、国際結婚、キャリアやライフイベントを重視する方など。
(→詳しくは「婚前契約を検討すべきケース」【内部リンク:記事5】へ)

手続きの流れ

ステップ内容
1. 相談入籍予定日・守りたい財産の確認
2. 契約書の作成個別事情に応じた条項の作成・調整
3. 公正証書化(任意)証明力を高めたい場合に作成
4. 登記婚姻届の前までに(→詳しくは「夫婦財産契約登記」【内部リンク:記事3】へ)

【登記実務のリアル】
夫婦財産契約の登記は、実は件数のとても少ない手続きです。
私自身は何度も申請していますが、申請先の法務局にとっては「今年初めての取り扱い」「数年ぶりの取り扱い」ということも少なくありません。
そのため、書式や取り扱いの確認にかえって時間を要する場面もあります。
入籍日までに確実かつ円滑に登記を終えるためにも、この分野の実務に精通した専門家に依頼することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q. 登記は必ず必要ですか?
A. 夫婦の間では登記がなくても有効です。第三者(債権者など)や相続人に契約内容を主張したい場合に登記が必要になります。

Q. 結婚後に内容を変えられますか?
A. 夫婦財産契約は、婚姻後は原則として変更できません(民法758条1項)。結ぶ前の設計が重要です。

Q. 婚姻後に変更できる例外はありますか?
A. 例外的に、夫婦の一方による財産管理が失当で財産を危うくした場合には、家庭裁判所への請求により、財産管理者の変更や共有財産の分割が認められます(民法758条2項・3項)。この変更をしたときは、登記をしないと第三者に対抗できません(民法759条)。もっとも、夫婦の合意だけで契約内容を自由に変えることは、原則としてできません。

Q. いつまでに手続きすればよいですか?
A. 締結も登記も、婚姻の届出前(入籍前)に行う必要があります。

Q. 費用はどのくらいですか?
A. 登記の登録免許税が1件18,000円。これに契約書作成・登記代理を依頼する場合の専門家報酬が加わります。

まとめ

夫婦財産契約は、結婚後の財産のルールを事前に明確化し、事業資産の保全や離婚・相続時のトラブル予防に役立ちます。
ただし「婚姻届の前に締結・登記」「婚姻後は原則変更不可」など、時期と設計が結果を大きく左右します。
内容の設計や登記まで一貫して対応しますので、検討されている方はお早めにご相談ください。

▶ ご相談はこちら