基礎知識
財産分与の対象にしたくない資産があるときの対処法|弁護士が解説
監修:弁護士 服部浩司
「離婚することになっても、お互いに財産分与はしない」「この資産だけは分与の対象にしたくない」——そうした内容の婚前契約(夫婦財産契約)を結びたい、というご相談があります。
もっとも、そもそも財産分与とはどのような制度で、何が対象になるのかを理解しておかないと、思ったような取り決めにはなりません。
この記事では、財産分与の基本と2026年の民法改正、そして「特有財産なら本当に対象外なのか」という点を整理します。
財産分与とは——二人が築いた「共有財産」を清算する制度
財産分与は、離婚の際に、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を清算して分ける制度です(民法768条)。
中心となるのは、二人で形成した財産を公平に清算する「清算的財産分与」で、このほかに離婚後の生活を支える扶養的な要素や、慰謝料的な要素が含まれることもあります。
対象になるのは、名義が夫婦のどちらであっても、婚姻中に夫婦が協力して築いたと評価される財産(実質的共有財産)です。
専業主婦(主夫)として家庭を支えた場合でも、その貢献は財産形成への寄与として評価されます。
2026年の民法改正で財産分与のルールが明確になった(768条)
2026年(令和8年)4月1日、財産分与に関する民法768条が改正されました(令和6年法律第33号)。
この改正は、令和3年2月に法務大臣が法制審議会へ諮問し、令和6年2月の答申を経て成立したものです。
主なポイントは次の3つです。
- 考慮要素の明示:分与の額や方法は、婚姻中に取得・維持した財産の額、各自の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、協力・扶助の状況、年齢・心身の状況・職業・収入その他一切の事情を考慮して定める、と明記されました(768条3項)。
- 寄与は原則「2分の1」と推定:各自の寄与の程度は「異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と定められました。家事・育児なども寄与に含まれるため、原則2分の1が出発点として明確になりました。
- 請求できる期間が2年→5年に延長:家庭裁判所への財産分与の請求は、離婚から5年まで可能になりました(従来は2年)。
▼ 改正のポイント
| 項目 | 改正前 | 改正後(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 考慮要素 | 明文の規定なし(解釈による) | 財産の額・寄与の程度・婚姻期間・生活水準等を条文に明示 |
| 寄与割合 | 実務上おおむね2分の1 | 「異なることが明らかでないときは相等しい」=原則2分の1と明文化 |
| 請求できる期間 | 離婚から2年 | 離婚から5年 |
つまり、特別な事情がなければ、二人で築いた財産は原則として半分ずつ清算する、という枠組みが法律上いっそう明確になりました。
「特有財産なら分与の対象にならない」——本当にそうか?
ここで問題になるのが、「もともと自分の財産(特有財産)は、分与の対象にならないのでは?」という点です。
確かに、①婚姻前から持っていた財産、②婚姻中に相続・贈与で得た財産は「特有財産」として、原則、清算の対象から外れます(民法762条)。
しかし、そう単純ではありません。
特有財産に当たりそうな資産でも、夫婦の生活の実態から「実質的には共有財産だ」と評価されれば、分与の対象になります。
共有財産か特有財産かの境界は曖昧で、次のような場合が典型です。
- 婚姻前からの資産が、婚姻後の収入や共有財産と混ざり合い、区別がつかなくなっている
- 婚姻期間中の夫婦の協力によって、その資産の価値が維持・増加したと評価される
- 事業用の資産が、家計と一体になった「家業」の成果とみられる
「もともと自分の財産だった」というだけでは結論は決まらず、取得の経緯や婚姻期間中の管理・形成の実態を総合して判断されます。
評価が分かれやすく、見通しを誤ると、守れると思っていた資産が分与対象になってしまうこともあります。
「財産分与をしない」婚前契約はできる?——できるが“設計”が要る
冒頭のように、「離婚してもお互い財産分与はしない」「特定の資産は分与の対象にしない」という内容の婚前契約を結びたい、というご相談があります。
結論として、婚姻の届出前であれば、夫婦財産契約でこうした取り決めをあらかじめ定めることは可能です(民法755条・756条)。
ただし注意が必要です。
一方に著しく不利な内容や、財産分与の請求権を一方的に奪うような条項は、公序良俗(民法90条)に反するなどとして無効と判断されることがあります。
「対象外にする」「請求しない」と一方的に宣言すれば必ずそのとおりになる、というものではありません。
そして、どんな夫婦にも当てはまる“この条項さえ入れれば大丈夫”という万能の書きぶりも存在しません。
何をどこまで有効に守れるかは、資産の種類・収入・事業の状況によって変わるからです。
だからこそ、専門家による設計が重要です。
「無効にならないこと」と「実際に効果があること」を両立させるには、資産・収入・事業の状況を踏まえた法的な設計が欠かせません。
誰にでも使える“ひな形”では対応しきれないからこそ、その方に合った実効性のある形に組み立てることに価値があります。
【補足】2026年4月の民法改正(754条削除)との違い
同じ令和6年の改正で、民法754条(夫婦間の契約取消権)も削除され、婚姻中に夫婦間で結んだ“一般の”契約が一方的に取り消されなくなりました。
ただし、民法上の制度である「夫婦財産契約」は、改正後も婚姻の届出前に結ぶ必要があり、婚姻後に新たに結ぶことはできません。
なお、ウェブ上で見かける「754条が削除されたから婚姻後でも夫婦財産契約が結べる」という理解は誤りです。
よくある質問(FAQ)
Q. 財産分与は必ず2分の1ですか?
A. 2026年の改正で、寄与の程度は「異なることが明らかでないときは相等しい」とされ、原則2分の1が出発点です。
もっとも、寄与の程度が明らかに異なる等の事情があれば、割合が修正されることもあります。
Q. 婚姻前の貯金や相続財産は対象外ですか?
A. 原則として特有財産にあたり対象外です。
ただし、婚姻後の財産と混ざったり、婚姻期間中の維持・増加が評価されたりすると、実質的共有財産として対象に含まれることがあります。
Q. 「財産分与はしない」と婚前契約に書けば確実に守れますか?
A. 必ずしもそうとは限りません。
一方に著しく不利な条項などは無効と判断されることがあります。有効でバランスの取れた内容にするための設計が重要です。
Q. 離婚後でも財産分与を請求できますか?
A. 2026年の改正で、請求できる期間が離婚から2年→5年に延長されました。
まとめ
財産分与は、二人が築いた「実質的共有財産」を清算する制度で、2026年の改正により原則2分の1・請求期間5年という枠組みが明確になりました。
特有財産でも実態から対象と評価されることがあり、共有と特有の境界は曖昧です。
契約で一方的に「対象外」と定めても無効になり得るため、資産を守るには、状況に応じた夫婦財産契約の設計が有効です。
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